震災対応SSとは?いざという時に頼りになるのか考えてみた

ガソリンスタンド

「震災対応SS」というガソリンスタンドをご存知ですか?

屋根(キャノピー)の横に「震災対応SS」と表示されているENEOSのスタンドのことです。

 

「震災対応SS」と聞いて「へぇーそれは頼もしい!」と思う方もいるでしょう。

一方で、東日本大震災(以下3.11と記します)の被災者であれば、「本当に頼りになるのかな?」と疑ってかかる方も多い気がします。

そこで今回は、「震災対応SS」とは具体的にどのような事態に対応するSSなのかを明らかにした上で、その有効性について考えてみようと思います。

 

具体的に何に対応するSSなのか?

ENEOSのHPによると、

震災対応SSは、一定規模以上かつ震災時に有効な拠点になると考えられるSSに「緊急用発電機」を配備することで、万一、停電などによって計量機が作動しなくなっても給油を行えるようにするものです。

とあります。

 

ガソリンスタンドでは、地下タンク内にあるガソリンをポンプで汲み上げて給油する仕組みになっています。 ポンプの動力源はもちろん電気です。

つまり、いくらガソリンの在庫があっても停電してしまえば営業はできません。

そこで、発電機の電力でポンプを含む給油設備を動かすことでこの問題を解決しようというのが、「震災対応SS」の趣旨です。

 

2006年から設置が始まり、現在(2020年8月)は全国の800以上のSSがこの「震災対応SS」となっています。

3.11以降は発電機の大型化や計量機の浸水対策など、さらなる対策強化が進められているということです。

 

なお、政府の主導の下、ENEOS以外のスタンドでも発電機の設置が進められています。

災害時における地域住民の燃料供給拠点となるスタンドを「住民拠点SS」と言い、全国で6900カ所以上(2020年8月時点)が整備されています。

「住民拠点SS」の一覧は、資源エネルギー庁のHPで確認できます。

 

3.11で起きたこと

停電発生

仙台市内では、発災直後から数日間に渡って全域で停電が発生しました。

停電は、市中心部から外側に向かって徐々に解消されていきましたが、その間、自家発電機を設置していないスタンドは営業不能に。

停電解消後に営業を再開したスタンドも、ガソリンの供給がストップしたため、在庫を売り切った時点で再度閉店せざるを得ませんでした。

製油所で津波被害・火災発生

3.11では、広範囲で大津波が発生したのはご存知の通りです。

沿岸地域にあるガソリンスタンドは、その多くが津波被害に遭い営業不能となりました。

 

また、ガソリン供給の拠点である製油所や油槽所は、海上輸送に便利な沿岸地域に集中しています。

私が住む宮城県にあるJGTXエネルギー(ENEOS)の製油所は大津波の直撃を受け、施設の一部が爆発炎上しました。

立ち上る黒煙は10km以上離れた私の住まいからも目視ではっきりと確認できるほどで、鎮火まで1週間近くかかったのを覚えています。

千葉県市原市のコスモ石油千葉製油所では、地震の揺れによるLPGタンクの倒壊でやはり爆発・火災事故が発生しています。

長蛇の列と数量規制

震災の数日後、比較的被害の少なかった塩釜市内の油槽所が動き出すと同時に、一部のスタンドが営業を再開しました。

ただ、要であるENEOSの製油所が止まったままなので、需要に対して供給が圧倒的に足りません。

ガソリンを輸送するタンクローリーが少なからず津波被害に遭ったことも、供給不足に拍車をかけました。

 

その結果、一般車両が長蛇の列を作り数時間待ちという状況が常態化。 順番が回ってきても、給油できるのは20Lまでなどの数量規制がかかります。

朝一で整理券をもらいに行かないと給油できないスタンドや、緊急車両専用(一般車お断り)というスタンドもありました。

 

3月の東北はまだ寒いです。

順番待ちの際ヒーターを入れたいところですが、可能な限りガソリンを節約しないといけません。

そこで、エンジンを切って毛布にくるまり、前の車が動いた時だけエンジンをかける、ということを多くの車がやってました。

その後、ENEOSのスタンドも順次営業が再開されていきましたが、行列・数量規制といった混乱が解消されるまでに、仙台市内で3週間を要しました。

 

震災対応SSは頼りになるのか

私を含め3.11の被災経験者が「震災対応SS」という表示に違和感や疑念を抱くのは、このような苦い経験があるからです。

いくら発電機でスタンドの設備を動かせたとしても、ガソリンの供給自体がストップしてしまえば、結局のところ営業はできません。

加えて、沿岸部のSSでは発電機を高所に設置しないと津波による浸水被害で発電機が使用不能になる可能性も考えられます。

 

なので、単に発電機を設置しただけでは、震災対策としては頼りないというのが正直な感想です。

「住民拠点SS」とは別に「震災対応SS」という名称で差別化した以上、ENEOSは自らに重責を課したということです。

とするならば、製油所やタンクローリーも含めた地震対策・津波対策が同時に進められて初めて「震災対応SS」を名乗るにふさわしいと言えます。

 

いざ震災が起きた時に「震災対応SS」で給油ができないとなれば、お客さんから大量のクレームやお叱りを受けることになります。

そして、その矢面に立たされるのは現場です。

私自身スタンドマンですので(ENEOSではありませんが)、お客さんから叱責され頭を下げ続ける同職の姿がリアルに目に浮かんでしまうのです。

 

最後に

…とまあ、厳しいことを書いてきましたが、3.11が想定外の大震災であったことは差し引いて考えなければなりません。

そして何より、震災に対応できるSSを作る!というENEOSの取り組み自体は歓迎されるべきです。

 

発電機1つとってみても大型のものは数百万円しますし、導入後も定期的なメンテナンスが必要です。

平時には使わない設備にこれだけのお金をかけるというのは、難しい経営判断だと思います。

今後さらに対策が強化され、震災時に本当に頼れるSSとして地域住民の生活を支えてくれることを期待しています。

 

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